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彼は、困ったような風ではあったものの、泣きも喚きもせず、ただ淡々とこちらの言い分を聞き、受け入れ、そのうえで自分の言い分を返すことまでした。――その姿には、独特な聡明さがうかがえた。
さすが二十五年間も女として過ごしてきただけはあり、言葉遣いのみならず仕草や振る舞いに至るまで常に女性そのものであったが、到底それには相応しくない、まさに強い男の持つそれのような、ぴしっと一本筋の徹った鉄の意志の存在が見てとれた。
何としても自分はここから逃げ出してやるのだ、という―――。
面白い、と思ってしまった。
このまま手放したくない、自分の手元に置いておきたい、という欲望にかられた。
――その鉄の意志で抱く望みを、へし折ってやったら、その時こいつはどうするだろうか。
そんな暗い愉悦が自分の内側に湧いてきた。
それを自覚したと同時、自分の手が彼を掴んで引き寄せていた。
今しがたまで彼を寝かせていた布団の上に、その背を押し付けるや、纏う夜着を引き裂き、取り払い……無理やり全裸にしたうえで、彼の秘密を暴いてしまった。
そうやって私は、彼の秘密を握った上で、側に留めておくことに成功はしたのだ。
あんな襲いかかるような真似までしてしまったのだ、以来、彼と相対するたび終始、警戒心を向けられてしまうこととはなったけれど。
しかし、そこまでの恐怖心は抱かれていなかったようで、ただ諦めたように応対してくれる。
まがりなりにもティアトリード侯爵家令嬢だっただけのことはあり、それとも神殿住まいが長かった所為で世間知らずなだけなのか、どちらにせよ、身分の隔てがある相手にも物怖じしないでいてくれるのは助かった。そう常に恐縮されて満足な応対も出来ないようであれば、こちらがつまらないからな。
しかも、今や国王陛下であるアレクとのやりとりに至っては、本当に驚かされた。
名門家同士の繋がりから、旧知の仲であったことには納得もできるが……それにしたって、あの仏頂面で定評のあるアレク相手に面と向かい、ああも平然とズケズケ物を言える者が居ようとは思わなかった。よりにもよって『面倒くさい』だの『シスコン』だの『メンクイ』だのという、不躾にしてもホドがありすぎる言葉を。――アレクが評した通り、明らかにそれは『冷めた毒舌』以外のナニモノでもない。
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