黄金の獣は咲き初めし花に酔う

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     とはいえど、幾ら何でも勝算も無しに、そんなことまで出来はしない。  彼が欲しいあまりに若干暴走しかけていたことも否めないが……それでも、それを為すことで得られる自国の利を考えたら、自然と心が決まっていた。  このサンガルディア王国を、どんな形であれ手中に収められるならば、それこそユリサナ帝国にとっては利益にしかならない。戦争となることで被るだろう不利益も、得られる成果により相殺される。  おまけに、当時の国王であった前王には、恨みこそあれ、恩義なんて全く無かったからな。その御父君であった亡き前々王陛下であれば、ユリサナ帝国としては大恩も友誼もあり、また決して侮れない君主だと充分に承知していたからこそ、どんなに愛する者の頼みであっても決してこの国に手を出そうなどとは考えなかっただろうが……その馬鹿息子の手から国一つ滅ぼし奪うことになら、何の躊躇すらも湧いてこなかった。実際、国王としての器も御父君には到底及ばない小者だということも、重々承知していたことだし。  そして私は、皇帝である父を説き伏せ、我が国の軍部を動かし、この国を奪うに至った。  だから今、ここに居るのだ。――このサンガルディア王国を、在りし日のままに護るために。 「切っ掛けはレイの頼みであったとしても……だが結果は同じだっただろう。あの前王が君主として君臨していた限り、いずれは父上も動いたに違いない。それが遅いか早いかの違いだけだ」 「とはいっても、皇帝陛下であれば、こんな回りくどいことはせずに、勝利した時点でサッサと我が国に併合してしまっていることでしょうに」 「それは仕方ないだろう。私はこの国の在り(よう)が好きなんだ」  ゆえに、属国として、これまでの形のまま残すことを決めたのだ。  かつて愛する者と共に過ごした思い出の地を、何一つ壊すことなく、そのままの形で残したかった。――と云うのは、幾ら何でも感傷的すぎるだろうか。
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