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「でも、間違いじゃないよね。眠る行為が死んでるって考えなら、私は何回死んでるのよ」
彼女は本当におかしい、と目尻に涙を浮かばせる。
「あ、でも、それはそれでロマンチックね」
すると、彼女は意外な言葉を発する。
「え? どこが?」
「ほらだって、眠れる森の美女も白雪姫も死をさまよっていたところに、王子様のキスで目が覚めるじゃん。ロマンチック」
「眠れる森の美女は死なないように眠らせられただけで、死をさまよってはないぞ」
「そんな細かいことはいいの。っていうか、君の考えとその言葉、矛盾してるじゃない。君にとって睡眠は死なんじゃないの?」
言い返す言葉もない。
「あー、お姫様って羨ましいわ。世間じゃ私の症状は個性ではなくて病気と捉えられちゃうからね」
彼女は躊躇いもなく皮肉を交え、ゆっくりと伸びをする。すると、その腕が一気に地面に落ち、彼女の体が沈み込む。
慌てて支え、ソファに寝かせると、眠ってないときはコロコロと変わる表情が、今は何も変わることなく瞳を閉じている。睡眠は幸せだと豪語する彼女は、それを示し合わせるかのように、時々笑顔になる。
小さな口からはかすかな吐息がし、胸が上下する。
「……と言っても、本当の死体は柔らかくもないし、暖かくもないし、息しないし、夢も見ない」
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