裏切り

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痛い。熱い。いや、寒い。 自分の腹から生えた剣の柄。 それを握る手、腕…と辿った視線のその先には見知った顔があった。 騎士団の同期のその男。 一般応募で入団した俺とは違う、貴族の息子。 「戦場で死ぬなら本望だろう?恨むなよ」 馬鹿野郎。コレで恨まないとか聖人でも難しいわ。 大神官でも助走つけて殴るレベルだわ。 「…ぐ、ごふッ!」 文句の代わりに口から出たのは鮮血。 自分の吐いた血の臭いで噎せ返る。 あ、咳き込むと腹筋に力入って刃が余計に食い込む。痛い痛い痛い。 あーくそ。俺が何したってんだ。 努力して精進して、ようやく騎士団に入れたってのに。 ようやく一兵卒から騎士になれたってのに。 ようやく彼女にプロポーズ出来ると思ったのに。 「叩き上げの汗臭い兵士よりも、将来のある煌びやかな騎士の方が彼女には似合う。そう、お前も思うだろう?」 ぐり、と剣が捻られた。 やめろ、中身がつられて捻じ曲がって苦しいだろうが。 あぁ、なるほどな。確かに殺し方としては効果的だ。 まさか自分で立証するとは思わなかったわ。 兵士よりも騎士。そうだ、だから俺は騎士になろうと努力したんだ。 おい、やめろって。もう充分刺さってんだろ。押すなって。 まだ彼女とキスしかしてねぇのに死ねるかよ。 あー、腹の中の異物感がハンパねぇ。 騎士団に入って、さぁこれからって時に何で俺、腹から剣生やしてんだろうな? あぁ、くそ。ダメだ、思考が纏まらない。 視界がチラついて、考えがあちこちジグザグに飛ぶ。 「汗臭い兵士が汗臭い騎士になるだけ。それなら最初から煌びやかな騎士の方がいい。そういう事だよ」 うん?どういう事だ?コイツは何を言ってる? 「最後に絶望して死んでいくがいい。教えてやるよ。俺がお前を殺す理由を」 近い。男にくっつかれても嬉しくない。 つか剣が更に腹に食い込む。柄がゼロ距離だよ、おい。 「彼女に頼まれたのさ。お前を殺して、私を奪って、ってな」 …は? ごぼり。また口から血が零れた。 彼女が、俺を? それをコイツに?何故? 俺が、庶民で、コイツが、貴族だから? 裏切られた、のか?俺は? 全身が、怒りと恨みで染まる。骨の髄まで。 黒い感情をそのまま、剣に込めた。 どうだ、痛いだろ? ずるりと剣が抜けるのと同時に俺から生命も抜けた。 そうして、俺は死んだ。
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