第1章

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「でも、本当に気をつけてね」  お頭の娘のティシュラが言った。彼女はイルラナ歳が近いせいか、旅の間ずっと仲良くしてくれていた。 「ルウンケストの王様は悪魔に取り憑かれてるっていうし」 「え? なにそれ」  イルラナの質問に、ティシュラは声を落として言う。 「ルウンケストの王様は代々ディサクスっていう名前なんだけどね……しきたりかなんかでずっと仮面をかぶっていて、王が変わるときも戴冠式を行わないの。だからいつ王様が変わったか分からないんだ。誰がなったのかも分からない」 「え、でも普通は長男がなるものじゃないの? それに顔が分からなくても体付きである程度別人かどうか見分けがつくでしょう。王の近くの人間から、誰かが一人いなくなって、どこか王の様子が変わっていたら、『そいつに変わったな』と分かりそうなものだけど」  ティシュラは肩をすくめた。 「たぶんね。でも、子供が王様になる前に早死にしても、いつの間にか何者かが王になっているんだって」 (たぶん、子供の代わりに大臣とか奥さんとかがなっているんじゃないかな)  そう思ったけれど、ティシュラの言葉を否定し続けるのも失礼な気がして、言わないでおいた。  ティシュラはイルラナの耳に顔を近付けた。 「でね、王になった人は必ず残酷な性格になるんだって。だから何百年も同じ人間が王の座に就き続けているんだとか、仮面の悪魔に取り憑かれるんだとか言われているの」 「た、確かに気味悪いけど、そうそう王様に会うこともないと思うから……」  イルラナの言葉に、ティシュラは一瞬きょとんとしたあと笑い出した。 「ま、それもそっか!」  早くしろとせかすように馬がいなないた。 「じゃあ、ここでお別れだな」  お頭が言った。 「今までホントにありがとうございました!」  別れの挨拶をすませると、お頭は馬に鞭をくれた。  手を振りながら去っていく隊列を見送ると、背に荷物を背負い、腰に貴重品の入った袋を巻き付け、イルラナはとぼとぼと歩きだした。
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