君は鏡なんか見ないと言ったけど

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君は鏡なんか見ないと言ったけど

「美千(みち)、誕生日おめでとう! これプレゼントだよ、欲しがってたバッグ!」 「えっ嘘っマジで!? ちょーうれしー! ありがとー! でもこれ高かったのに」 「バイト入れまくったからな!」 「ホント光(こう)君大好きー!」  待ち合わせ場所は駅前の噴水広場。高校生の男女が、周りを気にせず大きな声で話していた。  女子高生の美千(みち)は、プレゼントされたバッグを右手に下げたまま、光(こう)に抱き着く。自然と顔が緩むのは、男子高校生であれば仕方がない。  おそらく、男子高校生のそれを《女子高生》美千(みち)は、本能で理解している。  しかし、この絵面には少々違和感を感じる。  何が違和感を与えてくるのか。  その理由は、美千が持つ鞄だろう。高校生にしては背伸びしすぎな、分不相応な物であることを不釣り合いなセーラー服が物語っているからだ。 「じゃあさ、早く使いたいから週末デートしようよ光君っ! フューチャー・スタジオ・ジャパン!」 「FSJ!? いいね行こう行こう! あ、門限大丈夫?」 「うん、その日はなんとかするね。でも今日は、もうやばい……」  広場にそびえ立つオブジェを同時に見上げた。てっぺんに時計が埋め込まれているためだ。  その針は、そろそろ八時ということを知らせてくる。  それにしても時計の場所が上過ぎる気もするが、遠くからでも見えるようにということなのだろうか。  見難い時計から目線を落とすと 「ばいばい光君!」  美千が家路へ駆けて行った。 ☆  女の子の朝は大変だ。起床後は、洗面所へ直行する。寝ぼけ眼をそのままに呆ける秘(ひめる)は、鏡を見る前に、躊躇した。その理由は……。 「おっはよー!」  朝一番の元気な挨拶。それは男の声だ。 「見ないで」  洗面所の前で俯いたままの秘は、不機嫌な声で言う。寝起きが悪いのだろうか。こういう子の扱いは面倒だ。 「え~、そんなこと言わないでよー。ずっと待ってたんだからさ~」 「寝起きなのっ」 「寝ぼけた顔も可愛いよ」  その男は、不機嫌な態度を物ともせずに、明るく接する。しかも、それだけに収まらず口説き始めたではないか。だが、秘には何も響かなかったようだ。 「はいはい、ありがとありがと。わかったから後ろ向いて」
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