0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ね、ね。可愛いね、俺と一緒に遊ばない? 楽しませてあげるからさ。とりあえず連絡先でも交換しようよ。いやぁ、今日は幸運だなぁ。こんな可愛い子に会えるなんて」
「はいはい、うるさいよ」
そんなナンパを一蹴する。けれども、ナンパの声は他人には聞こえないから小声で言った。
ナンパ野郎は、ショーケースにいる光のおふざけだったからだ。
「ひめちゃんキツーイ。けどそんなところが可愛いっ」
「光君、なんでついてくるの。今日は高守先輩がいるんだから、やたらに話しかけてこないで」
「ゆーても、俺ひめちゃんが居るとこにしか居られないし……」
「それは仕方ないけど、話しかけるなって言ってるの」
「そんなんつまんないよ~」
「はいはい」
「つっめた! ひめちゃん最近つっめた!」
「おまたせ秘~」
「先に待たせちゃったのは私ですから」
高守の帰還と同時に光を無視する。
「じゃあ映画観に行こっか、あれ楽しみにしてたんだよねぇ」
「先輩もですか? この監督の前作面白かったですもんね! 『割れた鏡の純恋歌』!」
「ヒロインが、歌いながら坂をスキップするところとかね」
「ビルの屋上から紙飛行機を飛ばす主人公もかっこよかったですよね」
前作の感想を話しながら、映画館へ向かう二人を光は寂しそうに見ていた。
秘の通る道にショーウィンドウがあればそこに。車が通ればその窓に。入り口にガラスドアがあればそこに。光は、常にいた。
「面白かったですね~」
「うん、キュンキュンしたよね」
「先輩もしましたか」
「ヒロインが羨ましかったなぁ」
高守は、今を幸せそうに話す。秘をチラッと見やり
「ごはん食べてかない?」
「私もそのつもりでしたよ」
「やったぁ! じゃあね、私行きたいところあるの」
「えー、先輩の行きたいところですか、気になります!」
秘の好感触な反応に、満面の笑みでピョンと跳ねる高守は、可愛い。秘も可愛いと思ったのか、小走りで寄っていく。
「ひめちゃんさ、俺のこと放っておきすぎじゃない?」
無視、ではなく聞こえていないだけなのだが、光は無視されたと感じていた。
高守に連れてこられたのは、水槽のある綺麗なレストランだ。入り口に光もいたが、言葉を交わすことなく、中に入る。
「先輩こういう所、よく来るんですか?」
「まさか~。秘と来たかったから探してただけだよ」
最初のコメントを投稿しよう!