0人が本棚に入れています
本棚に追加
君は鏡なんか見ないと言ったけど
「美千(みち)、誕生日おめでとう! これプレゼントだよ、欲しがってたバッグ!」
「えっ嘘っマジで!? ちょーうれしー! ありがとー! でもこれ高かったのに」
「バイト入れまくったからな!」
「ホント光(こう)君大好きー!」
待ち合わせ場所は駅前の噴水広場。高校生の男女が、周りを気にせず大きな声で話していた。
女子高生の美千(みち)は、プレゼントされたバッグを右手に下げたまま、光(こう)に抱き着く。自然と顔が緩むのは、男子高校生であれば仕方がない。
おそらく、男子高校生のそれを《女子高生》美千(みち)は、本能で理解している。
しかし、この絵面には少々違和感を感じる。
何が違和感を与えてくるのか。
その理由は、美千が持つ鞄だろう。高校生にしては背伸びしすぎな、分不相応な物であることを不釣り合いなセーラー服が物語っているからだ。
「じゃあさ、早く使いたいから週末デートしようよ光君っ! フューチャー・スタジオ・ジャパン!」
「FSJ!? いいね行こう行こう! あ、門限大丈夫?」
「うん、その日はなんとかするね。でも今日は、もうやばい……」
広場にそびえ立つオブジェを同時に見上げた。てっぺんに時計が埋め込まれているためだ。
その針は、そろそろ八時ということを知らせてくる。
それにしても時計の場所が上過ぎる気もするが、遠くからでも見えるようにということなのだろうか。
見難い時計から目線を落とすと
「ばいばい光君!」
美千が家路へ駆けて行った。
☆
女の子の朝は大変だ。起床後は、洗面所へ直行する。寝ぼけ眼をそのままに呆ける秘(ひめる)は、鏡を見る前に、躊躇した。その理由は……。
「おっはよー!」
朝一番の元気な挨拶。それは男の声だ。
「見ないで」
洗面所の前で俯いたままの秘は、不機嫌な声で言う。寝起きが悪いのだろうか。こういう子の扱いは面倒だ。
「え~、そんなこと言わないでよー。ずっと待ってたんだからさ~」
「寝起きなのっ」
「寝ぼけた顔も可愛いよ」
その男は、不機嫌な態度を物ともせずに、明るく接する。しかも、それだけに収まらず口説き始めたではないか。だが、秘には何も響かなかったようだ。
「はいはい、ありがとありがと。わかったから後ろ向いて」
最初のコメントを投稿しよう!