第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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「君の笑顔に、対価を払いたくなったってこと」  私はやっと意味がわかって頷いた。 「そういう意味なんですね」  急に笑いがこみ上げてきた。  唇を噛んで、笑いを抑えようとしたけれどどうにもならなくて、両手で顔を隠した。 「で、引き受けてくれるの?」  私は、顔を隠したままで頷いた。 「交渉成立ね。じゃあ、握手しよう」  手のひらをどけて、顔を出す。  目の前に、ひとみさんの手のひらがあった。おそるおそる右手を差し出す。 「君の手、知ってる」  そう言って、親指の爪と関節の間にあるほくろに指先で触った。 「いっつも、深爪してるなと思ってた」  私は、恥ずかしくて手を引っ込めようとしたけれど、その手をひとみさんは捕まえて、強く握った。  店を出て、少し立ち話をした。 「講義が終わった後で、また会える?」  本当は、自動車学校の実習へ行くつもりだったけれど、予定をかえることにした。もっと、ひとみさんと話がしたいと思っていた。 「何時くらいになりそう?」 「五時くらいには……」  急げば帰れる。 「じゃあ、画材を買いに行くのつきあってもらえるかな。その後で、食事でもどう?」  私は頷いた。  ひとみさんが嬉しそうに笑う。  連作先を交換することになった。ひとみさんがLINEをしていないから、電話番号とメールアドレスを教えた。
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