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「君の笑顔に、対価を払いたくなったってこと」
私はやっと意味がわかって頷いた。
「そういう意味なんですね」
急に笑いがこみ上げてきた。
唇を噛んで、笑いを抑えようとしたけれどどうにもならなくて、両手で顔を隠した。
「で、引き受けてくれるの?」
私は、顔を隠したままで頷いた。
「交渉成立ね。じゃあ、握手しよう」
手のひらをどけて、顔を出す。
目の前に、ひとみさんの手のひらがあった。おそるおそる右手を差し出す。
「君の手、知ってる」
そう言って、親指の爪と関節の間にあるほくろに指先で触った。
「いっつも、深爪してるなと思ってた」
私は、恥ずかしくて手を引っ込めようとしたけれど、その手をひとみさんは捕まえて、強く握った。
店を出て、少し立ち話をした。
「講義が終わった後で、また会える?」
本当は、自動車学校の実習へ行くつもりだったけれど、予定をかえることにした。もっと、ひとみさんと話がしたいと思っていた。
「何時くらいになりそう?」
「五時くらいには……」
急げば帰れる。
「じゃあ、画材を買いに行くのつきあってもらえるかな。その後で、食事でもどう?」
私は頷いた。
ひとみさんが嬉しそうに笑う。
連作先を交換することになった。ひとみさんがLINEをしていないから、電話番号とメールアドレスを教えた。
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