第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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「終わったら、電話もらえる?」 「わかりました」  そう言った後で、恥ずかしくなってうつむいた。 「帰ります」  深くお辞儀をして、家に向かって歩き始めた。ひとみさんも、並んで着いてくる。私は、ひとみさんを見た。 「僕もこっちだから」  よく考えれば、毎日のようにコンビニへ来ていたのだから、近所に住んでいるのだろう。  話すわけでもなく、コンビニの方向へ並んで歩いていく。  昨日まで、こんな風にひとみさんと歩く光景なんて、想像もしなかった。  私の願いは、買い物に来てくれないかな? 程度だった。  ひとみさんは、私の持っていた印象よりずっと話しやすい。  会いたかった理由は、単純にカッコいいから見たいってだけだった。  今は、もっとお話ししたかった。  ひとみさんの声も話し方も、好きだ。  本当は、もう少し若いのかと思っていた。15歳も離れていたら、随分子供っぽくうつるんだろうと思う。 「ねえ」  声をかけられて、慌てる。 「君のこと、なんて呼んだらいい?」 「な、なんでもいいです」 「仲良くなりたいし、名前で呼ぶよ。律ちゃんて言いにくいから、呼び捨てにしてもいい?」  私は、自分の顔が真っ赤になったのを感じた。 「どうぞ」  うつむいた。 「かわいいなあ」  ひとみさんの言葉でさらに顔が火照る。 「律って本当にいい名前だね」  かわいいと言われたのが名前だとわかって、自惚れたことが恥ずかしく、これ以上ないくらい顔が熱くなった。
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