第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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 バイト先のコンビニの前にたどり着いた。 「明日の予定は?」 「一日フリーです」  ひとみさんは、良かったと言って笑った。 「じゃあ、一日僕が買ってもいい?」  買うと言われて、心が沈む。 「あの、お金いらないです」 「それは、だめ。僕は旅に出て、散々お金を使う予定にしていたのに、君を描くことにして中止になっちゃったし。モデルのバイトなんて長くったって、三ヶ月くらいのことだから、稼げるときに稼いだ方がいいよ。どうせ、防音室が欲しいなんて言ってるくらいだから、そのうち、良い楽器が欲しくなって、夜のバイト始めたりするのが落ちなんだから」  心を見透かされているのかと思った。 「お金を払わないと、たくさん拘束できないでしょう。ほんと、集中して描きたいから、無理言うと思うしさ」  わたしは、頷いた。お金をもらえば、たくさん会えるんだと、自分を納得させた。  コンビニの前で、また挨拶をする。 「じゃあ、また、よる……夕方ね」  ひとみさんは、なぜか言い直した。 「夕方までに契約書を作っておくね。みとめでいいから印鑑を持ってきて欲しいのと、その時にバイト代の受取口座を教えて」 「わかりました」  私はそう言って、うつむいた。ため息をのみ込む。 「律」  頭上に響いた声に驚いて顔をあげる。  ひとみさんは、頭をかきながら、笑った。 「呼び捨てするの、ちょっと照れるね……ささはらさん……」   私は顔を思い切り横に振った。 「な、名前で……呼んでください」  ひとみさんは、微笑むと「お言葉に甘えて、そうする」と言った。
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