653人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
バイト先のコンビニの前にたどり着いた。
「明日の予定は?」
「一日フリーです」
ひとみさんは、良かったと言って笑った。
「じゃあ、一日僕が買ってもいい?」
買うと言われて、心が沈む。
「あの、お金いらないです」
「それは、だめ。僕は旅に出て、散々お金を使う予定にしていたのに、君を描くことにして中止になっちゃったし。モデルのバイトなんて長くったって、三ヶ月くらいのことだから、稼げるときに稼いだ方がいいよ。どうせ、防音室が欲しいなんて言ってるくらいだから、そのうち、良い楽器が欲しくなって、夜のバイト始めたりするのが落ちなんだから」
心を見透かされているのかと思った。
「お金を払わないと、たくさん拘束できないでしょう。ほんと、集中して描きたいから、無理言うと思うしさ」
わたしは、頷いた。お金をもらえば、たくさん会えるんだと、自分を納得させた。
コンビニの前で、また挨拶をする。
「じゃあ、また、よる……夕方ね」
ひとみさんは、なぜか言い直した。
「夕方までに契約書を作っておくね。みとめでいいから印鑑を持ってきて欲しいのと、その時にバイト代の受取口座を教えて」
「わかりました」
私はそう言って、うつむいた。ため息をのみ込む。
「律」
頭上に響いた声に驚いて顔をあげる。
ひとみさんは、頭をかきながら、笑った。
「呼び捨てするの、ちょっと照れるね……ささはらさん……」
私は顔を思い切り横に振った。
「な、名前で……呼んでください」
ひとみさんは、微笑むと「お言葉に甘えて、そうする」と言った。
最初のコメントを投稿しよう!