第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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「ツイート見たけどさ。運命さんに会えたの?」  美佐子はベートーヴェンさんを運命さんに言い換えている。  私は、素直に頷いた。 「すっごく優しくって、やっぱりカッコよかった」 「いきなりデートとかマジ謎い」  デートという響きに、顔が熱くなる。  講義の内容はほとんど頭に入ってこなかった。  美佐子は帰る間際に「私のコートの方が、今日の服に合ってるから」と貸してくれた。  その代わりに「運命さんの写メ待ってるからね」と言われた。  まともな化粧道具もないから、講義の後で美佐子にしてもらった。  少しは、大人っぽくなったかなと思いながらも、自分が自分でないような恥ずかしさがあった。  家に帰ってバッグをかえてから、ひとみさんに電話をかけた。 「早かったね。先に契約書の方済ませたいから、マンションの下で715号を呼び出して」 「わ、わかりました」  私はバッグの中の印鑑と通帳を確認した。  マンションから出て、真向かいのマンションに入る。  部屋番号を押すと「あれ? まあいいや」とひとみさんの声が聞こえて自動扉が開いた。
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