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リビングにはテレビも見当たらず、まだ何も描かれていないキャンバスがあり、木製の大きな写真立てのようなものに立てかけてある。
「家具をほとんど捨てちゃったんだよね。律に似合う椅子を明日探しに行こう」
ひとみさんに言われて、ソファに腰掛けた。生活感がないせいか、部屋に入ってから少し緊張が薄らいだ。
テーブルの上にひとみさんが書類を置いた。
「目を通して。問題なければ署名捺印してね」
書類を手に取った。
契約書とタイトルがあり『人見 靖彦(以下甲という)』と始まった。
わたしは顔を上げた。
「ひとみさんってこうやって書くんですね」
「漢字? そう、瞳だと思ってたの?」と自分の目を指差した。
「漢数字の一と何かかなとか」
人見さんは頷いた。
わたしは書類に目を通す。
時給について五千円と書かれていたのでまた顔を上げた。
「時給が高すぎます。言われてたのでも高すぎるのに……」
「派遣でよくある時給に交通費含むって感覚でさ」
「交通費いらないじゃないですか」
「キリがいい方が計算が楽でしょう」
人見さんは多分、かなり計算が速い。四千二百五十円だろうとそう苦にならないはずなのに。
「君に不利な部分って講義や僕の認める用事以外、僕のところに来なきゃいけないってとこだけでしょう」
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