653人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
「わかりました」
人見さんは私をまっすぐ見た。
「律ってさ……まあいいや。僕はとことん」
少し怖くなるくらい鋭い目になった。
「つけこむよ」
私は目をそらせなかった。
「律は一度家に帰って契約書をしまっておいで」
二人でエレベーターに乗り込む。部屋で一緒にいた時より緊張した。
人見さんはダウンジャケットのポケットから、朝買っていったガムを取り出した。
「いる?」
「あっいいです。辛そうだから」
人見さんは、くすりと笑った。
私は、子供っぽいことを言ってしまって後悔した。
「僕も辛いガム苦手なんだけど少し我慢したら味がなくなるよ」
「我慢してるんですか?」
「タバコを我慢して、ガムの辛味も我慢してる」
「前から同じガムでしたよね?」
「あの頃は眠気覚まし」
あの頃って、ほんの数ヶ月前の話なのに、人見さんの生活スタイルは大きく変わって、今私と一緒にいる。とても不思議だった。
最初のコメントを投稿しよう!