第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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「わかりました」  人見さんは私をまっすぐ見た。 「律ってさ……まあいいや。僕はとことん」  少し怖くなるくらい鋭い目になった。 「つけこむよ」  私は目をそらせなかった。 「律は一度家に帰って契約書をしまっておいで」  二人でエレベーターに乗り込む。部屋で一緒にいた時より緊張した。  人見さんはダウンジャケットのポケットから、朝買っていったガムを取り出した。 「いる?」 「あっいいです。辛そうだから」  人見さんは、くすりと笑った。  私は、子供っぽいことを言ってしまって後悔した。 「僕も辛いガム苦手なんだけど少し我慢したら味がなくなるよ」 「我慢してるんですか?」 「タバコを我慢して、ガムの辛味も我慢してる」 「前から同じガムでしたよね?」 「あの頃は眠気覚まし」  あの頃って、ほんの数ヶ月前の話なのに、人見さんの生活スタイルは大きく変わって、今私と一緒にいる。とても不思議だった。
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