第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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「タバコやめても意味ないんだけど、願掛けしようと思ってさ」 「なにを願掛けしてるんですか」 「人に話したら効果なくなりそうだから言わないよ」  私は頷いた。  下についた。 「ここで待ってる」  私は走って家まで帰った。  外はすっかり暗くなっていた。人見さんの家から私の家まで1分もかからない。ここで暮らし始めてもうすぐ丸二年なのに、本当に会わなかった。それだけ生活のリズムに差があったんだと思う。  私は契約書を自分の部屋のクローゼットにある大事なものをしまう箱に入れ、すぐに人見さんの元に戻った。 「はやいね」 「近いですから」  そうだねと言って人見さんは笑った。  電車かタクシーかどっちがいいか聞かれて、電車を選んだ。  駅まで並んで歩く。 「人見さんはいつからあの家に住んでるんですか?」 「二年。ちょうどここに転勤してきて家を探してたら一部屋売りに出てて、ローンで買った。転勤になったら貸そうと思って。なんかあの時ピンときて買ったけど正解」 「ローン、返しちゃわないんですか?」 「うん、ほっといてももうすぐ完済するしね」
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