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「そうなんですか」
人見さんはくすりと笑った。
「家がいくらくらいして、ローンの金利負担がどのくらいでとか、何にもわかんないんでしょう」
「すみません」
恥ずかしくなってうつむいた。
「いいなあ、僕にもそういう時期あったなあ。ローンを返さないのは、ちょっと税金を節約できるからなんだ。せこいでしょう。払う金利より控除される額が大きいって、いい時代」
人見さんの言うことは難しい。
「律と話してると、自分まで純粋になれそう」
コンビニの前にたどり着いた。
「あっ」
辺りが暗いのに、ソフトクリーム型の看板にスイッチが入っていない。
店内はすいているから、忘れているのだろう。
指摘しにいくのも面倒なので、近づいていって、コンセントを差し込んだ。
クリーム部分がまぶしい。
「自動じゃないんだね」
人見さんは楽しそうだ。
店の外で、たばこを吸っている人がいて、煙が漂ってきた。
吸い込まないように、手で口元をおさえた。
「たばこ、苦手?」
「のどに良くないから、吸い込まないように気をつけてます」
「それで? たばこをやめたって僕が言ったとき、すごく嬉しそうな顔したよね」
「すみません。失礼なことをしてしまって」
人見さんは「別に失礼じゃないよ」と言った。
「僕さ、禁煙にチャレンジして失敗を繰り返してきたんだよね。だから、今回は、結構大きな願掛けして、頑張ってる」
頑張ってるって響きが、なんだかかわいく思えて、そして、そう感じた自分が恥ずかしくなってうつむいた。
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