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「髪型は前の方が好きでした」
「心機一転、丸刈りにしたのが伸びてきたんだけど、戻そうか?」
「やった」
私はガッツポーズをしてみせた。
「なんか、酔うとよく喋るね」
人見さんが笑う。その後ろで街灯やネオンがきらめいている。 目を閉じてみる。
「名前を知らない頃、私、人見さんのことベートーヴェンさんって呼んでました。いっつも顰めっ面で……」
目を閉じたまま歩き始めると、グラグラと揺れて楽しかった。
「そういう印象持ってて、どうして待っててくれたのか不思議」
「なんだか、苦悩してる感じでいいなあって」
「律って、変わってるなあ」
「でも、優しい人見さんの方が」
何かに足を取られてバランスを崩す。人見さんは腕を支えてくれた。
「優しい僕が何?」
「何て言おうとしたのか忘れました」
人見さんの腕につかまっている。たまらなく恥ずかしくなった。動悸が激しい。私は呼吸を整える。
「律、お酒弱そうだから、飲みに行くとき気をつけるんだよ」
優しく背中をさすってくれる。余計に苦しくなってしまう。
「ごめんね、無理に飲ませて」
「あの、お酒は楽しいだけで、なんともないんです」
「やっぱり体調悪かった?」
私は頭を横にふった。
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