第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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「本当に大丈夫なんです。改めて、人見さんと一緒にいると思ったら、き、緊張してきただけです」  自分で次から次へと余計なことをしゃべってしまうから、困る。目も合わせられない。 「あ、ありがとう」  限界を感じて手で顔を覆った。 「年甲斐もなく、照れてしまった」  そう言った人見さんの声が、本当に照れていそうだったので、どんな顔をしているのだろうと気にはなったけれど、顔をあげることはできなかった。  帰りはタクシーに乗った。人見さんは私に気を遣っているのか、あまり話さなくなった。私は、おしゃべりしすぎたせいで、自己嫌悪に陥っていた。 「なんか、眠くなってさ。ぼーっとしてた」  人見さんに話しかけられた。 「そうなんですか……」 「律も、早かったし眠いんじゃないの?」 「平気です」  時計をみるとまだ九時過ぎだった。 「明日、バイト行くときくらい早く起きられる?」 「多分……」  それきりしばらく何も言わなかった。 「ちゃんとお金払うから、どっかに朝日を見に行こう」  わかっていてもいちいち傷つく。 「はい、わかりました」  ため息交じりだ。  人見さんにとっては気まぐれかもしれない。それでも、明日になってすぐに会えると思うと、やっぱり嬉しかった。
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