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「本当に大丈夫なんです。改めて、人見さんと一緒にいると思ったら、き、緊張してきただけです」
自分で次から次へと余計なことをしゃべってしまうから、困る。目も合わせられない。
「あ、ありがとう」
限界を感じて手で顔を覆った。
「年甲斐もなく、照れてしまった」
そう言った人見さんの声が、本当に照れていそうだったので、どんな顔をしているのだろうと気にはなったけれど、顔をあげることはできなかった。
帰りはタクシーに乗った。人見さんは私に気を遣っているのか、あまり話さなくなった。私は、おしゃべりしすぎたせいで、自己嫌悪に陥っていた。
「なんか、眠くなってさ。ぼーっとしてた」
人見さんに話しかけられた。
「そうなんですか……」
「律も、早かったし眠いんじゃないの?」
「平気です」
時計をみるとまだ九時過ぎだった。
「明日、バイト行くときくらい早く起きられる?」
「多分……」
それきりしばらく何も言わなかった。
「ちゃんとお金払うから、どっかに朝日を見に行こう」
わかっていてもいちいち傷つく。
「はい、わかりました」
ため息交じりだ。
人見さんにとっては気まぐれかもしれない。それでも、明日になってすぐに会えると思うと、やっぱり嬉しかった。
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