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第二章 バスケット取引
いつもより、早く起きた。寒いけれど、苦にならない。
せめて、スカートにしようとロングの巻きスカートを選んだ。化粧は、不評だったから、色つきのリップだけにする。髪型は、いつも後ろで一つにまとめている。今日は、サイドアップにした。
六時に下で待ち合わせている。人見さんは車を出しておくと言っていた。家族の車以外に乗ったことはない。考えたら、緊張してきた。
少し早いけれど家にいても落ち着かない。ブーツを履いて外に出た。下りると、向かいのマンションの脇道から、車が出てきた。通り過ぎるのを待っていると車は目の前で停まった。エンジンをかけたまま、人見さんが下りてきた。
「おはよう。早いね。助手席に乗って」
「おはようございます」
ニット帽をかぶっていた。似合っている。
「朝ご飯は向こうで食べよう」
「わかりました」
車に乗る。
なんだか、車の中が木目調になっていて、家の車より高級そうだった。嗅いだことのない不思議な香りがしている。
「間に合うかわかんないけど、海に向かうね」
「海行くんですか!」
思わず、大きな声をだしてしまった。
「高速に乗れば、日の出にぎりぎり間に合うかなと思ってさ」
海が見られるなんて、思わなかった。
「海好きなの?」
「小さい頃、海のそばに住んでいたので」
「どこの?」
「高知ですよ。幼稚園の途中までいました」
父との思い出は、なぜか海とセットになっていた。父の死後、岐阜にある母の実家に身を寄せた。それからはあまり海へは行かなくなった。私が中学生の頃、母は、なんの相談もなく『佐々原さん』と再婚した。すぐに女の子が生まれて、その子ももうすぐ小学生になる。今も岐阜で三人仲良く暮らしている。
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