第二章 バスケット取引

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「好きって言った割に元気なくなった?」 「そんなことないです」  人見さんの横顔をみて、鼻の形がきれいだと思った。  ハンドルを握る手まで素敵で、ついみとれてしまう。運転に集中しているから、気づかれない。  三十分ほど走ってから、高速道路のパーキングに入った。少し歩くと展望台があるらしい。辺りは薄明るくなっているが、今日の日の出は六時四十六分なので、まだ少しある。  車からおりる。海が近いからかさっきよりもずっと寒く感じる。 「風が強いね」  人見さんが嬉しそうに言う。私は身を縮めながら、頷いた。  展望台にたどり着いた。  水平線に、光がみえた。  少し顔をのぞかせた太陽が、海に光の道を作った。私は寒さも忘れその光景にみとれた。  メロディが下りてきて、口ずさむ。   「すごくきれい、誰の歌?」  人見さんの質問にもこたえず、私は、音を見つけては拾っていく。ポケットから、スマホを取り出した。ボイスレコーダーを起動させる。最初からメロディラインを口ずさんだ。  朝日は強い光を放ちながら、水平線から浮かび上がった。  私は隣に立つ人見さんをみた。  優しく笑いかけてくれる。  ニット帽や、頬や肩が朝日に照らされて金粉を纏ったようにきらめいた。 「一緒に写真撮りましょ。日が昇っちゃう」 「え?」  手に持ったスマホを内カメに切り替えた。人見さんに少しだけ近づく。精一杯腕を伸ばして写真をとる。  逆光ではあるが、朝日や海もかろうじて映り込んだ。 「これは、初めてドライブ記念の写真です」 「ドライブ、初めてだったの?」  スマホ画面をチェックしながら頷く。  人見さんは横からのぞき込んで「うわ、間抜け面」と言った。 「律は、かわいいよ」  わざわざ付け足してくれる。
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