第二章 バスケット取引

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 頷く。  車へ戻りながら、人見さんに「さっきの歌なんだけど」と訊かれた。 「えっと……」  恥ずかしくてこたえられなかった。 「まあ、いいや。すごくキレイだなって思っただけ」  つい、口元が緩む。  人見さんは、そこからさらに車を走らせた。高速を下りてからも、海沿いを走る。私は、外をずっと眺めていた。 「港まで行くつもりなんだけどね」  早朝から開いている喫茶店に車をとめた。軽く朝食をすませる。 「早く着きすぎるけど、もう移動しようかあ」 「はい」  また優しく笑いかけてくれた。  人見さんの話だと、港に家具の卸が集まったエリアがあるらしい。椅子を買うだけなのにと思ったけれど、多分、朝日のついでなんだと思った。アウトレットモールもあるから、行こうと言っていた。  まだ、開く時間ではないから、車の中でしばらく話をしていた。  人見さんのしていた仕事の話をきいた。 「人の欲につけこむ仕事だったなあ」  とまったままの車のハンドルを握ってそう言った。横顔が寂しそうに見えた。     
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