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しばらくして人見さんは起き上がった。少し外を歩こうと言った。海が近いせいかここも風が強い。
「さっきよりましだけど、寒いね」
人見さんは、コートの襟をたてて、首をすくめた。
「そうですね」
「余裕ある感じ。若いからかな」
人見さんは楽しそうに笑う。
「後二十分もすれば、オープンするけど並ぶのもなあ。外は寒いしなあ」
結局車に戻った。
「寒さに耐えられなくってごめんね」
謝られる。
「律は、どこか行きたいところある?」
「今ですか?」
「今じゃなくても、休みの日でも、車でないと行けないところだとか。まだ、連れて行ってあげられる。今ならイメージを膨らませたいから、こうやって活動するのもかまわないんだけど、決めたらもうずっと室内作業になるからさ」
私は、少し考えてみる。
「遠くてもいいんですか?」
「ほどほどならかまわないよ」
「人見さんが……」
一緒ならどこでもいいと言いたかった。
「行きたい場所に連れて行ってください」
人見さんが真剣な目をして私をみた。
「行きたいところばかりで、決められない……」
怒ったのかと思うくらい顔をゆがめた。ハンドルに額をつけて考え込む。しばらく顔をあげなかった。
エンジンがとまった。運転席のドアが開くと冷たい空気が一気に流れ込んできた。
私は軽く身震いをする。
「もう、店が開く時間だから行こう。行きたい場所は一人で考えておく」
背を向けたまま言った。
私も慌てて外へ出る。早足で行ってしまう人見さんを追いかける。人見さんは一度振り向くと、リモコンで鍵を閉めた。
すごい勢いで歩くから、必死でついて行く。
「後三ヶ月で約二千百六十時間、これから五百四十時間以上が睡眠にあてられて、残った時間の三分の一を律と過ごせるとしたら、五百四十時間しかない。二百七十万円しか使えない」
人見さんは振り向かずにそう言った。突然立ち止まった。私は人見さんの背中にぶつかった。
「時給倍にしてもいい?」
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