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「いろいろありすぎて、迷いますね」
「選択肢は多ければ多いほど良いわけではないってことかな……いやいや、それは違うな。多いほうが良いに決まってる。決められない側の能力に問題があるんだ」
人見さんが顎に拳を当てて考え込む姿が素敵で、じっとみてしまう。
「二手に別れてまず絞り込もう。十五分後にここで」
絵を描く都合上、ナチュラルなと言っていたけれど、一人になってからは、イタリアン家具やモダンなものにも座っていった。
ヨーロッパのお城にありそうな椅子もあって、優雅な気分になる。高くて、自分では買えないものばかりだ。
私がほぼ遊んでいる間に、時間は過ぎたようで、人見さんは戻ってきた。
「意外なものが気に入ってるんだね」
私がヨーロピアンアンティーク調の椅子に座っていたから、そう言われた。
「僕はもう決めたから、座り心地を試しに来て」
着いて行く。
人見さんの選んだ椅子は、大きな木の切り株が座りやすいようにくり抜いてあるものだった。
「樹齢数百年の杉を加工してあるって」
木の皮は背面に残してあるけれど、年輪の刻まれた柔らかな肌が優しい曲線で削り出されている。
「見た瞬間、この椅子になりたいって思った……」
「椅子に?」
「そう、椅子に……」
「素敵ですね」
人見さんは私をみつめる。
「笑われるかと思った」
首をかしげる。
「私もよく……」
言いかけて、恥ずかしくなった。人見さんにはまだ話していない。
「何?」
「ぎ、ギターになりたいって、思います」
「なにか楽器をしてるんだろうなと思ってたけど、ギターなんだ。へえ、今度聴かせてね」
私はうつむく。人見さんの前で、巧く弾けるかわからない。
促されて椅子に座る。肘掛けになった部分の丸みが、優しく体を包む。ものすごく、安心できる不思議な椅子だった。
「見た目ほど重くないって言ってたよ。中身は結構くりぬいてあるんだって」
私は椅子の横にあるプレートの文字を見て驚いた。慌てて立ち上がった。
「こ、この椅子、ものすごく高いじゃないですか!」
「高い?」
桁が一つ違う。
「一応、交渉はしてみるよ。だけど、高くないでしょう。こんな椅子どこ探したってないよ。だいたい樹齢一年につき一万円は、妥当なんじゃない? 樹齢四十年のものに四十万出すって言ってるんじゃないけどさ」
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