第二章 バスケット取引

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 アウトレットモールにつくと人見さんは私に言った。 「今から僕が要求することに対して、拒否権はないからね」  念を押されて身構える。  それから私は、二時間以上、着せ替え人形にさせられた。  モールに入っている店の中から、人見さんが何店舗か選び出した。  そこで、店員に『できるだけ長く着られて似合う服』を三組ずつ選んでもらう。  私が試着して、人見さんが気に入れば買うという行為を繰り返した。  紙袋がたくさんで、とても持ち帰れない。三軒目から、人見さんは自宅に送るように頼んでいた。 「こんなに服を買って、置くところがありません」 「ひとまず僕の家に置いといたらいいでしょ。これは、絵を描くときの衣装みたいなもんだからさ」  そういいながら靴までそろえていた。 「気に入った服は持って帰っていいからね」  人見さんのマンションにたどり着いた頃には、夕方になっていた。 「なんか疲れたね。今日はデッサンをする気力はないなあ」  人見さんは言った。 「結構歩きましたね」 「そうだね、律は服を脱いだり着たり大変だったでしょう」 「でも、なんか不思議な感じがしました。鏡に映る自分をみて、何度も驚いて」 「結構ベーシックな物が多いから、アレンジきくんじゃないかな」  ファッションのことはわからないから、首をかしげて曖昧にした。 「少しだけ寝ようかな。そうだな……僕の目覚ましになってもらおう。一時間経ったら寝室に起こしに来て。その間、そこら辺でゆっくりしてくれたらいいいよ」
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