653人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
アウトレットモールにつくと人見さんは私に言った。
「今から僕が要求することに対して、拒否権はないからね」
念を押されて身構える。
それから私は、二時間以上、着せ替え人形にさせられた。
モールに入っている店の中から、人見さんが何店舗か選び出した。
そこで、店員に『できるだけ長く着られて似合う服』を三組ずつ選んでもらう。
私が試着して、人見さんが気に入れば買うという行為を繰り返した。
紙袋がたくさんで、とても持ち帰れない。三軒目から、人見さんは自宅に送るように頼んでいた。
「こんなに服を買って、置くところがありません」
「ひとまず僕の家に置いといたらいいでしょ。これは、絵を描くときの衣装みたいなもんだからさ」
そういいながら靴までそろえていた。
「気に入った服は持って帰っていいからね」
人見さんのマンションにたどり着いた頃には、夕方になっていた。
「なんか疲れたね。今日はデッサンをする気力はないなあ」
人見さんは言った。
「結構歩きましたね」
「そうだね、律は服を脱いだり着たり大変だったでしょう」
「でも、なんか不思議な感じがしました。鏡に映る自分をみて、何度も驚いて」
「結構ベーシックな物が多いから、アレンジきくんじゃないかな」
ファッションのことはわからないから、首をかしげて曖昧にした。
「少しだけ寝ようかな。そうだな……僕の目覚ましになってもらおう。一時間経ったら寝室に起こしに来て。その間、そこら辺でゆっくりしてくれたらいいいよ」
最初のコメントを投稿しよう!