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最近できたばかりのカフェに入った。
コーヒーを頼んだら、この時間はモーニングがただでつくと言われた。私は「本当にいいんですか?」と聞き返してしまった。
「はいサービスとなっております」
軽く馬鹿にしたような笑顔とともに答えてくれる。私は恥ずかしくなってうつむいた。
「つくんだったら、二人分つけといて」
ひとみさんは冷たい声でそう返した。
「スクランブルエッグとボイル」
「先に言った方でいい、二人とも」
きつい口調に驚く。
店員さんが去ると、ひとみさんは私のほうに手を伸ばして、机を指先でたたいた。
「あの子の時給は九百円、君は八百五十円。これは納得いくの?」
「時給の話好きですね」
「時給の話が好きなんじゃないよ。僕は時間を大切にしたいから」
私は首をかしげる。
「時間給って、自分の時間を切り売りしてもらうでしょう。君たちは別に自分の能力を売ってるんじゃないよ。誰でもできるとまでは言わないけれど専門職じゃないんだからさ。君は、二十歳の学生で、時間はいくらでもあると思っているんだろうね。だから、若くて自由で、そういう本当に貴重な時間を、八百五十円という破格値で売っている」
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