第一章 相対取引(あいたいとりひき)

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 最近できたばかりのカフェに入った。  コーヒーを頼んだら、この時間はモーニングがただでつくと言われた。私は「本当にいいんですか?」と聞き返してしまった。 「はいサービスとなっております」  軽く馬鹿にしたような笑顔とともに答えてくれる。私は恥ずかしくなってうつむいた。 「つくんだったら、二人分つけといて」  ひとみさんは冷たい声でそう返した。 「スクランブルエッグとボイル」 「先に言った方でいい、二人とも」  きつい口調に驚く。  店員さんが去ると、ひとみさんは私のほうに手を伸ばして、机を指先でたたいた。 「あの子の時給は九百円、君は八百五十円。これは納得いくの?」 「時給の話好きですね」 「時給の話が好きなんじゃないよ。僕は時間を大切にしたいから」  私は首をかしげる。 「時間給って、自分の時間を切り売りしてもらうでしょう。君たちは別に自分の能力を売ってるんじゃないよ。誰でもできるとまでは言わないけれど専門職じゃないんだからさ。君は、二十歳の学生で、時間はいくらでもあると思っているんだろうね。だから、若くて自由で、そういう本当に貴重な時間を、八百五十円という破格値で売っている」     
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