第一章 相対取引(あいたいとりひき)

7/28

653人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
 ひとみさんの言うことは正論に聞こえた。だからと言って説得される訳にはいかない。 「私は、変なお店で働けません。お金がたくさんもらえれば、それが正しいんですか?」  みなれた気むずかしい顔になった。眉間に深いしわが刻まれる。 「変なお店で働けなんて、言ってないよね」 「じゃなきゃ、その時給おかしいです」  ひとみさんは目を丸くした。 「ああ、それでか。だけど最初に絵のモデルにって言ったよね」  絵のモデルの相場は知らないけれど、一時間四千円以上なのはやはり高いと思う。 「値段って、なんで決まってるか知ってる?」 「価値でしょう」 「まあいいや、じゃあ、価値って何で決まるの?」 「それは……」  すぐには答えられなかった。 「需要と供給のバランスだったり、いろいろだけどさ。値段イコール価値でもないしね。お金に換算できる価値の方が少ないと思うけど、お金はわかりやすいよね。特に土地なんかはさ、どうしても欲しいと思っている人が二人いたら、どんどん値がつり上がるんだよ。僕は、君の時間をその金額を出してでも買いたいって思ったから、提示したんだよね。君が足りないって言うなら、それ以上出してもいいよ」
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

653人が本棚に入れています
本棚に追加