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「お金が欲しいなんて言ってません」
まじめな顔で私をみつめた。
「君はなんで、バイトをしてるの? 講義は昼からの日でも早起きして、はいらないといけないんだよね。学費のため?」
私は頭を横に振った。生活費も、十分な仕送りをしてもらっている。
「欲しいものがあるからですけど……」
子供っぽい理由で、恥ずかしくなった。
「何が欲しいの?」
「ぼ、防音室です。組み立て式の……」
ひとみさんが、身を乗り出して、私をのぞき込んだ。
「面白いもの欲しいんだね」
私は頷いた。
「どうして欲しいの?」
恥ずかしくて、こたえなかった。
「まあいいや。それ、買ってあげるから僕の絵のモデルになって」
私は頭を横に振った。
「困ります」
ひとみさんは顔を横に向けて、少しの間考え込んだ。
店員さんが、大きなマグカップに入ったコーヒーと、トーストなどを持ってきた。
「ありがとう」
冷たい声でいう。
「冷めないうちに食べよう」
こちらを向くと人がかわったように優しい声になった。
厚切りのトーストは柔らかくて、サービスでついたにしては量があった。
ひとみさんが、私のことをみているから、居心地が悪くて仕方ない。うつむき加減でもくもくと食べた。
私が食べ終わると話しかけてきた。
「最初から順序だてて考えてみようか」
ゆっくりと頷いた。
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