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「君は欲しいものがあってバイトをしている。僕は君の絵が描きたいからモデルを頼んでいる。モデルになれば、君は今より多くのお金が手に入る。僕は君の絵が描ける。これってWINWINの関係じゃないの?」
否定はできなかった。
「もしかして、僕の部屋で二人きりになるから警戒してたりする?」
私はうつむいた。
「それなら心配はいらないよ。全然」
理由を言わなかった。
顔をあげると、優しく笑う。私が子供っぽいからそういう対象じゃないと言いたいのかもしれない。
「これでも、うんって言わないんだ」
ひとみさんは口をへの字にまげる。
「まあいいや。それじゃあ、デメリットに目を向けてみる?」
私は、断ったらどうなるかを考えた。
今日ここでモデルの話を断れば、またしばらく、会えないかもしれない。ひとみさんは、優しいけれど、怖いところもある。
やっと名前がわかっただけのこんな状態で、何も決められない。
もう少し、ひとみさんがどんな人なのか、知りたいと思った。
「あの……ひとみさんは、おいくつなんですか?」
「気になる?」
頷く。
「君の一.七五倍ほど生きてるけど」
私は頭の中で計算を試みる。
「数字弱い? 三十五だよ」
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