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劇団を実質的にまとめている、大島宏紀だ。
定年退職を迎えて劇団一本の常陸とその妻に次ぐ年長者とはいえ、まだ40になっていない。
「待ってくださいよ、常陸先生。これきりって約束でやってもらったんです。そもそも、紗川さん、祭りで奉納やってることもホントは言いたくなかったわけでしょ? 無茶言ったらダメですよ」
「宏紀、しかしこれはもったいない。彼は舞台映えする。これまでとは違う客層を集められる人材だ」
「その気持ちはすごくよくわかりますがね。今はここまでにしときましょうよ。ね? 今回のスポンサーでもあるわけだし。機嫌損ねて金出さないって言われるほうが困るじゃないですか」
「……まあ、それはそうだが」
「ほら、みんなも。人を増やしたいのは分かるけど、無理は言わないこと。でも、自分の周りで演技に興味がある人がいたら見学大歓迎。いつでも連れてきて。いいかな」
宏紀の呼びかけに、皆納得したようだ。
「じゃあ、ボランティアの皆さんは舞台設営の続きに戻って! あ、夫婦役の二人と常陸先生は演技の方で。敦子ちゃん、悪いけどお茶取って来てくれる? 紗川さん、お茶を届けますので、ひとまず休んでてください」
「いえ、自分で手取りに行きます」
「いいんですよ、スポンサーさんをこき使うわけにはいかないから」
紗川をスポンサーと言った、大島宏紀の言葉に違和感を覚えながらも、三枝は黙っているほかなかった。
探偵として現場にいることは隠してほしい――それは今回の依頼主の意向だ。
「きよあきさん」
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