1章 容疑者たち

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「きよあきさん」  涼やかな声が探偵の名を呼ぶ。  アウトドア用のテーブルと椅子が用意されている休憩スペースには、髪の長い少女が座っていた。全てが小さく、整っている様は、人間と言うよりも人形のようだ。 「お疲れ様」 「翠さん……仕向けましたね」  パイプの長椅子に腰を下ろしながら、紗川が恨み言を漏らした。 「まあ、何のことでしょう?」  彼女は探偵のいとこであり、また依頼主でもある。 「そうそう、つむぎさん」  三枝は名前を呼ばれてびくりと跳ね上がった。  天使のようなほほえみに騙されてはいけない。  依頼主なのだから、丁寧に接する必要があるが、それ以上に怖い存在だからだ。 (絶対怒らせちゃダメだ。嫌われないようにしないと)  高校生の三枝にできる、精一杯の愛想笑いを浮かべる。  しかし、三枝の警戒などお見通しなのか、とともに差し出されたものの前にあっけなく陥落した。 「さあ、休憩にいたしましょう。サバランはいかが? ププリエのサバラン、美味しいですよ」 「ぷぷりえ……って、あのププリエですか?」  ププリエは埼玉県のケーキの名店の一つであり、三枝の好きな店だ。  特にサバランは絶品で、人気が高い。本店はここ東松山市にあるのだが、先日昼過ぎに訪れた際は、既に売り切れていた。 「ラムシロップと、あんずシロップ、どちらがいいですか?」  細いリボンをほどきながら尋ねられ、即座にラムと答える。 「はい、どうぞ」  彼女のほっそりした指先が、紙皿の上にサバランを乗せてくれた。
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