8章 夫婦役・小倉智樹と黒沼ルリカ

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(え……)  三枝は茫然とルリカを見つめた。  死んだ常陸真奈美は、高校三年生だった。  自分と同年代だ。 「ルリカ……それは言わないでおこうって……」 「もう死んでるんだから、言ったって問題ないでしょ」 「でも……」 「男はこういうの、ほんっと無責任だよね。言わせなさいよ」 「……そんなに言いたいなら、言ってもいいけど……でも、俺、責任持てないよ」 「いいよ、あたしが言いたいだけだから――聞いてください、紗川さん」 「伺いますよ、黒沼さん」 「あの子――真奈美ちゃんは、孝雄に騙されて妊娠させられて、なのに孝雄には黙ってたんですよ」 「騙された……とはどういう事でしょうか」  ルリカは嫌悪感をあらわにした。  これだから男はとでも言いたげだ。 「ちょっと考えればすぐわかるじゃないですか。高校生の女の子ですよ? しかも、箱入りのお嬢様。そんな子が年上の男と付き合って妊娠したんです。騙されてないわけがないじゃないですか」 「そういう意味でなら、同感です。黒沼さんには相談していたのですね?」 「相談はしてないです。あたしにははっきりとは言わなかったけど、そういうのは分かるんです! 女同士だし」  同性でなければ分からないと言われてしまうと、男としては何も言えなくなる。  ましてや、今のルリカは気が立っている。  ヒステリックな女性には近づかない方がいい。  ごめんなさいと謝って逃げ出したい気持ちになったが、紗川が平然としている以上、三枝もそれに倣う必要がある。 「黒沼さんの他には、気付いている方はいらっしゃるのでしょうか。愛子先生や小林さんはいかがでしょう」 「あたしが言ってるだけじゃ信用できないっていうんですか?」  心の中で「こえええ~」と悲鳴を上げながら、三枝は何とか平静を務めた。
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