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話の内容まで知られてはいるのではないかと、三枝は不安になった。
だが元凶のルリカは全く心配していないらしい。
「はーい」
大きく返事をすると、崖に近づいて下をのぞく。基樹も一緒だ。
どうやら、通し稽古をするから下りてこいと呼ばれているらしい。
ルリカの方は話し足りない様子だったが、三枝はホッとした。
気がかりな点はあるが、ヒステリックに怒鳴られるのは苦手だ。
ルリカは「何か、怒っちゃってすみません。でも、分かりましたよね?」と言い残して繁みの奥に消えた。
「紗川さん、申し訳ありませんでした。ルリカ、ちょっと興奮気味で」
後に残った基樹が頭を下げてきた。
「いえ、お気になさらず。彼女の怒りも理解できます」
「そう言ってもらえると助かります。もう少し話したかったですけど、呼ばれちゃったんで」
「構いませんよ。後ほどうかがうこともあるかもしれません」
「じゃ、また……」
「ああ申し訳ない、一つだけ教えていただけないでしょうか」
「なんですか?」
「真奈美さんと高梨さんが付き合いだしたのは、オペラの配役が決まってからでしょうか」
「それより前ですね。真奈美ちゃんは昔から劇団の手伝いをしてくれてたんですが、付き合いだしたのはここ1年くらいだから」
「よくご両親にバレなかったものですね」
「まあ、俺たちにも隠してましたから――おっと、早くいかないと」
宏紀が呼んでいる声が聞こえる。
基樹はよく通る声で返事をすると「また後程」と言って走って行ってしまった。
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