8章 夫婦役・小倉智樹と黒沼ルリカ

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 話の内容まで知られてはいるのではないかと、三枝は不安になった。  だが元凶のルリカは全く心配していないらしい。 「はーい」  大きく返事をすると、崖に近づいて下をのぞく。基樹も一緒だ。  どうやら、通し稽古をするから下りてこいと呼ばれているらしい。  ルリカの方は話し足りない様子だったが、三枝はホッとした。  気がかりな点はあるが、ヒステリックに怒鳴られるのは苦手だ。  ルリカは「何か、怒っちゃってすみません。でも、分かりましたよね?」と言い残して繁みの奥に消えた。 「紗川さん、申し訳ありませんでした。ルリカ、ちょっと興奮気味で」  後に残った基樹が頭を下げてきた。 「いえ、お気になさらず。彼女の怒りも理解できます」 「そう言ってもらえると助かります。もう少し話したかったですけど、呼ばれちゃったんで」 「構いませんよ。後ほどうかがうこともあるかもしれません」 「じゃ、また……」 「ああ申し訳ない、一つだけ教えていただけないでしょうか」 「なんですか?」 「真奈美さんと高梨さんが付き合いだしたのは、オペラの配役が決まってからでしょうか」 「それより前ですね。真奈美ちゃんは昔から劇団の手伝いをしてくれてたんですが、付き合いだしたのはここ1年くらいだから」 「よくご両親にバレなかったものですね」 「まあ、俺たちにも隠してましたから――おっと、早くいかないと」  宏紀が呼んでいる声が聞こえる。  基樹はよく通る声で返事をすると「また後程」と言って走って行ってしまった。
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