8章 夫婦役・小倉智樹と黒沼ルリカ

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(え……?) 「君の価値観を否定したように感じたのなら、謝ろう。本質はそこではない」 「じゃあ、どういう意味なんですか」 「生きる為に狩りをする動物がいる。食われるほうも、生き延びるために命がけで戦う。角や蹄で命を落とす捕食動物は少なくない。本能とは生きる為にあるものだ。ならば殺意とは本来、本能とともにあったもののはずだ――先ほど言ったのは、そういう意味だ」 「生きることは戦いだって言う人もいますけど。そういう事ですか?」 「似ているが、違う」  紗川は地に生えていた小さな草を掴むと、あっさりと引き抜いた。 「僕は今、君に伝えるためだけに、一つの命を奪おうとしている」 「草も確かに生きてますけど、でも」 「動物と植物の線引きは、人間が勝手に決めたものだ。少なくとも僕はそう考えている」  草を落とし、指先の土を払った紗川は微笑んだ。 「自分が生きる為ではない殺意は、本能によるものではない。その逆だ」 「つまり、どういう意味ですか」 「つまり、人間だけが理性で人を殺す。そう言っているんだよ、三枝君」
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