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(え……?)
「君の価値観を否定したように感じたのなら、謝ろう。本質はそこではない」
「じゃあ、どういう意味なんですか」
「生きる為に狩りをする動物がいる。食われるほうも、生き延びるために命がけで戦う。角や蹄で命を落とす捕食動物は少なくない。本能とは生きる為にあるものだ。ならば殺意とは本来、本能とともにあったもののはずだ――先ほど言ったのは、そういう意味だ」
「生きることは戦いだって言う人もいますけど。そういう事ですか?」
「似ているが、違う」
紗川は地に生えていた小さな草を掴むと、あっさりと引き抜いた。
「僕は今、君に伝えるためだけに、一つの命を奪おうとしている」
「草も確かに生きてますけど、でも」
「動物と植物の線引きは、人間が勝手に決めたものだ。少なくとも僕はそう考えている」
草を落とし、指先の土を払った紗川は微笑んだ。
「自分が生きる為ではない殺意は、本能によるものではない。その逆だ」
「つまり、どういう意味ですか」
「つまり、人間だけが理性で人を殺す。そう言っているんだよ、三枝君」
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