9章 通し稽古

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9章 1 舞台の上で  事前に言っていた通り、立ち入り禁止のロープを張り直してから、三枝たちは城跡を下った。  念のため時間も計ったが、城跡への登り口までは5分、そこから舞台の下まで移動しても10分かからなかった。 「なんか……拍子抜けです。翠さんの話だとすごく大変そうなイメージだったんですけど」 「ハイヒールを履いていたそうだから無理もない」  売店で城跡を登るのが大変だったという話を聞いた時は、先に進んでいった宏紀の祖母が健脚なのだろうと思っていたが、それだけではない様だ。  紗川の革靴を見ても、ほとんど汚れていない。  せいぜい、三枝の髪に木の葉が絡んだくらいだ。 「そもそも、女性のヒールの高い靴は歩くためのデザインではないからな。距離が短いとはいえ舗装されていない山道を歩くのは無謀だ」 「歩きにくそうだなあとは思ってましたけど。女の人のハイヒールって、いいですよね」  大人の女性の靴と言うイメージが強く、肌色の足にヒールの高い靴の組み合わせはドキリとする。  しかし次の瞬間に、紗川が面白そうにこちらを見ているのに気付いて慌てて話を戻すことにした。  上司とそう言う話をしたくないという真面目な理由ではない。単純にからかわれそうだから嫌なのだ。 「ところで先生」  真面目に話をすることにした。
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