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宏紀は自分が見られていることに気づいたようだ。
ニカッと笑うとこちらにやってきた。
「どうでしたか、上から見た風景。なかなかの絶景だったでしょ」
まだ春だというのに、宏紀はTシャツの袖を肩まで織り込んでいた。太い筋肉は汗で光っている。
「全体が見えて、大変興味深かったです。しかし、柵がないので部外者に勧めるのは控えた方が良いかもしれませんね。それに、本来は立ち入り禁止ですから」
「いやいや、紗川さんたちだし、大丈夫でしょう。それに落っこちなければいいんだから大丈夫ですよ、あのくらい」
三枝は内心で頭を抱えてしまった。
知ってはいたが、それ以上に危機管理能力が低すぎる。
紗川は苦笑いしていた。
「足場を組むのに、あの崖はちょうどよかったようですね」
どうやら、紗川は話を変えることにしたようだ。
宏紀が頷く。
「そうなんですよ。上からも資材を下せるからクレーンを用意しなくて済んだのは助かりましたねえ。クレーンを使う使わないで結構違うから」
「大島さんは普段、そういったお仕事をしているのですか?」
「あれ、言ってませんでしたっけ? 俺のうちは塗装屋なんですよ。足場を組んでね、建物の色塗りやってます」
「ああ、だから高い所が得意なんですね」
「得意っていうか、慣れてるとは思いますねえ。屋根の塗り替えは足場がないこともありますよ。怖いなんて思っていたら仕事にならないですからね」
(げえ……そんな人と一緒にしないで欲しい。ふつうは、あんな高い所登らないし、柵がなかったら、近づいたら駄目なところなんだからな!)
宏紀は笑っているが、三枝は笑えなかった。
紗川が立ち入り禁止のロープを張りなおしてくれたことに感謝の気持ちすら湧いてくる。放っておいたら、終わった後もあのままだったかもしれない。
「しかし……こうしてみると似てるもんだなあ……」
宏紀が小さく呟いた。
「誰がですか?」
紗川がたずねると、宏紀の瞳に悲しげな影がさした。
「まあ、親子なんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、ありゃ、常陸先生も辛いだろうと思ってーー」
一体、何の事だろうと三枝も内心首を傾げている時だった。
――パシッ! パシッ!
何かが破裂したような音がした。
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