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平山城、武蔵松山城跡の側面には、おおきな岩窟がある。
明治から大正にかけて一人の男の執念が掘りあげたというその岩窟は、大正時代にはミステリアスなスポットとしてひそかに人気が出たそうだ。
百穴は小さな穴がいくつもあいていて、不思議なものがあるとしか思えなかったが、こちらは明らかに人工物であり、穴が大きい分、中途半端に奥を覗くことができて不気味さもある。
鉄格子がはられているせいで、中を見ることはできないが、その奥が寒いことを三枝は知っている。
暗い穴に入っていくと、ある時から急激に寒さを感じ、暗闇に囚われていくような錯覚に陥る。
軽い酩酊感にくらくらしながらそれでも奥に進んでいくと、光が一切届かない、ただの闇が広がる。
(ここ、そう遠くないうちに心霊スポットってことで有名になるんだろうな)
そんなことを思いながら、紗川のサバランにスプーンをさすと、ジュクジュクと沈んでいく。
特にシロップが多いところだったらしい。
一口より大きめに切り分け、シロップをたっぷりと含ませて口に運んだ。
シロップを含ませるためのブリオッシュの穴のように、この岩窟もまた、何かを含んでいるのかもしれない。
三枝はその場所を見ていた。
舞台はその前に組まれていた。
上手と下手に高くそびえる飛び降り台。
飛び降り台には、空中ブランコがセットされている。
ひと月前、そこから一人の少女が飛び降りた。
その死は事故として処理され、残された劇団員は、一丸となって舞台を成功させようとしている。
活気のある現場だ。
皆、仲がいい。
(でも……この中に犯人がいるんだ)
互いに声を掛け合い、助け合いながら舞台を作っている劇団菜摘のメンバーを見ながら、三枝はここに来た初日のことを思い出していた。
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