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「えっと。シュトーレン……ドイツのケーキですよね。冬の。ドライフルーツがたくさん入ってる美味しいやつ」
「君の説明だとほとんどのものが『美味しいもの』で終わってしまいそうだが――そうだ」
「先生、知らないんですか? 食べられるものには2つの種類しかないんですよ。美味しいものとそうじゃないものです」
「分かった。ププリエのシュトーレンを冬に買う、と、君の予定に刻んでおけ」
「もちろんです。冬にはシュトーレン、この帰りにサバランを買って貰うと刻んでおきます。もちろん焼き菓子は外せません」
「……買ってもらう、なのか」
「焼き菓子は外せないですね。焼き菓子選手権で受賞しただけあって美味しいし。サバランは絶対本店のを食べるって心に誓っています」
「そんなに好きなのか」
「大好きです」
「分かった。帰りに寄って行こう」
「よっしゃ、やった! ありがとうございますっ!」
なるほど、この温度がシュトーレンの美味しさを育てるのだと思うと、有り難く思えてくる。
いつの間にか隣に並んでいた紗川が苦笑していたが、それすら広い心で許せてしまう。
シュトーレンは何処で保管するのだろうと思いながら歩いていると、人の話し声が聞こえてきた。
派手さには欠けるとはいえ、ここも観光名所の一つだ。人がいておかしくはない。だが、様子がおかしかった。
鉄格子に手をかけ、揺らしている。
どうやら、若い男女のようだ。
「基樹、やめなよ。怒られるって」
女性が男性を止めているようだ。
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