プロローグ

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 桜が城跡に揺れている。  むき出しの岩壁の前で、探偵がジャケットを脱いだ。 「頼む」  助手はそれを受け取る。  高級スーツだけあって、触り心地がいい。  次に渡されたのはネクタイ、次いでカフスだ。  上がワイシャツとベストだけになると、首から肩、背から腰への筋肉の付き方がわかる。袖をまくり、腕時計も外した。 「先生、眼鏡はどうしますか?」  この後のことを考えれば、預かっておくべきだ。腕時計も眼鏡も、怪我の原因になる。  助手の言葉に探偵が頷いた。  フレームレスの眼鏡ではあるが、外すと印象が変わる。視力が悪いせいだ。よく見ようとするからか、目つきが悪くなる。  第二ボタンまで外し、ゆるりと首を回す探偵に、助手は預かっていた扇子を渡した。 「紗川さん、準備はいいですか?」  声をかけられた探偵は頷く。 「お待たせいたしました。いつでもどうぞ」
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