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「良かったですね、翠さん。お迎えがいらして。ごきげんよう、紗川さん。先日の顔合わせの際は、ほとんどお話ができませんでしたね」
「お世話になっております」
翠を抱き上げたままの紗川に、スカーフの女性は眉を寄せていた。
「翠さん、プロとしてやっていくためには自己管理が必要不可欠です。その足、本番までにどうにかできますか?」
あまりのいい方に、三枝は唖然とした。
けが人を相手に言う言葉ではない。
しかし言われた方は朗らかに微笑んでいる。
「はい、ご安心下さいませ。明日まで安静にしていれば何も問題はございません。今日は予定よりも三時間ほど練習と待ち時間が生じてしまったから、痛みが出てしまっただけです」
「三時間……立ちっぱなしだったんですか?」
紗川が驚いたように口を挟む。
「つい、集中しすぎてしまったようです」
スカーフの女性には微笑んだまま答えた翠だったが、紗川に対しては首をすくめている。
穏やかな表情を保とうとしてはいる紗川だが、よく見ると眉間に皺が寄っている。
(やべぇ。先生、怒ってる)
「……水分も休憩も、全員に必要だと思いますが。3時間、誰もそれを指示しなかったのですか?」
「熱中していて忘れてしまったのです。わたくしも同様です。禁じられていたわけではありませんし……」
だんだん小さくなっていく翠の声に対し、紗川の声は硬くなっていく。
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