2章 来訪初日

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(マジかー。この人、先生より8歳も年上とか。俺より20歳も年上とか……うそだ……ありえない……)  若く見える理由は童顔と言う表現だけではすまされない。骨格そのものが、少女のそれなのだ。顎も小さく肩幅も狭い。背が低いというよりも、発達の途中の段階にあるように見える。  痛めたという足は、黒いタイツを履いているせいで状態が見えないが、よく見れば片足首が腫れているようだ。  先ほどまでは包帯がまかれていたのだが、冷やしすぎて凍傷になってしまうかもしれないと、紗川がほどいていた。  腫れているのだろう、左右の足の違いがはっきりとわかる。  紗川が今、ここにいないのはそのためだ。  翠の包帯をほどくなり、紗川は川越まで車を取りに行くと言いだした。  駐車場にとめてある車では、用をなさないからだ。  紗川のシルビアS15は事実上、二人乗りだ。  本来S15の定員は4名だが、紗川の身長のせいで後部座席に人を乗せることは難しい。  運転手のシートポジションを動かせない以上、他の二人がきつい思いをすることになる。平素ならそれで問題はないだろうが、今は怪我人がいる。  紗川は車をかえるため、川越と吉見を往復することになった。  その結果が現在だ。  一時間、翠と向き合って過ごすわけだが、まるで緊張が解ける気がしない。  パイプ椅子に腰を下ろした翠は、痛めていない方の足をプラプラと揺らしながら、三枝を見てニコニコしている。  勧めてきた五家宝の感想を待っているのだろうか。 「あの……美味しいです。桜の風味とか良いですよね。出来立てだけあって、柔らかくて」 「ふふ。熊谷銘菓だから、お土産で食べたことあると思うのですけれど、やはり、できたては美味しゅうございますね」 「……」 「どうかなさいましたか?」 「いえ……翠さんみたいな言葉遣いをする人にあったことがなかったので……ちょっとびっくりしてます」  翠の目が大きく開かれた。 ==加筆修正== 2018.7.6 翠の足の負傷について
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