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(マジかー。この人、先生より8歳も年上とか。俺より20歳も年上とか……うそだ……ありえない……)
若く見える理由は童顔と言う表現だけではすまされない。骨格そのものが、少女のそれなのだ。顎も小さく肩幅も狭い。背が低いというよりも、発達の途中の段階にあるように見える。
痛めたという足は、黒いタイツを履いているせいで状態が見えないが、よく見れば片足首が腫れているようだ。
先ほどまでは包帯がまかれていたのだが、冷やしすぎて凍傷になってしまうかもしれないと、紗川がほどいていた。
腫れているのだろう、左右の足の違いがはっきりとわかる。
紗川が今、ここにいないのはそのためだ。
翠の包帯をほどくなり、紗川は川越まで車を取りに行くと言いだした。
駐車場にとめてある車では、用をなさないからだ。
紗川のシルビアS15は事実上、二人乗りだ。
本来S15の定員は4名だが、紗川の身長のせいで後部座席に人を乗せることは難しい。
運転手のシートポジションを動かせない以上、他の二人がきつい思いをすることになる。平素ならそれで問題はないだろうが、今は怪我人がいる。
紗川は車をかえるため、川越と吉見を往復することになった。
その結果が現在だ。
一時間、翠と向き合って過ごすわけだが、まるで緊張が解ける気がしない。
パイプ椅子に腰を下ろした翠は、痛めていない方の足をプラプラと揺らしながら、三枝を見てニコニコしている。
勧めてきた五家宝の感想を待っているのだろうか。
「あの……美味しいです。桜の風味とか良いですよね。出来立てだけあって、柔らかくて」
「ふふ。熊谷銘菓だから、お土産で食べたことあると思うのですけれど、やはり、できたては美味しゅうございますね」
「……」
「どうかなさいましたか?」
「いえ……翠さんみたいな言葉遣いをする人にあったことがなかったので……ちょっとびっくりしてます」
翠の目が大きく開かれた。
==加筆修正==
2018.7.6 翠の足の負傷について
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