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「オペラでは、よりファンタジックな物語になっています。女は元々沼に住んでいた一匹の鯉だったという設定です」
「鯉ですか」
「ええ。下沼の弁天様が鯉を村娘の姿に変えてやると言うシーンがあるのですよ。かつて男に親切にしてもらった鯉が、恩返しをするのです」
まるで鶴の恩返しのようだ。
いや、魚が人になるという点では、人魚姫に近いのかもしれない。
「わたくしは、その弁天様役なのです」
主役ではないことに驚いたが直ぐに思い直した。
(弁天様って、七福神のアレだろ? ギターみたいなの持ってる女の神様。芸事の神様なんだっけ。ってことは一番うまい人がやらないとサマにならないってことか)
ならば翠が適役だろう。
ごく短いフレーズだったが、聞いた歌声は人のものとは思えない美しさだった。
三枝は素直にうなずいた。
「ところで、つむぎさん」
「何でしょうか」
「わたくしの依頼の件。内容はご存じないとのことですので、お話をいたします」
三枝は、緑茶に伸ばしていた手を引っ込めた。
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