2章 来訪初日

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「オペラでは、よりファンタジックな物語になっています。女は元々沼に住んでいた一匹の鯉だったという設定です」 「鯉ですか」 「ええ。下沼の弁天様が鯉を村娘の姿に変えてやると言うシーンがあるのですよ。かつて男に親切にしてもらった鯉が、恩返しをするのです」  まるで鶴の恩返しのようだ。  いや、魚が人になるという点では、人魚姫に近いのかもしれない。 「わたくしは、その弁天様役なのです」  主役ではないことに驚いたが直ぐに思い直した。 (弁天様って、七福神のアレだろ? ギターみたいなの持ってる女の神様。芸事の神様なんだっけ。ってことは一番うまい人がやらないとサマにならないってことか)  ならば翠が適役だろう。  ごく短いフレーズだったが、聞いた歌声は人のものとは思えない美しさだった。  三枝は素直にうなずいた。 「ところで、つむぎさん」 「何でしょうか」 「わたくしの依頼の件。内容はご存じないとのことですので、お話をいたします」  三枝は、緑茶に伸ばしていた手を引っ込めた。
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