2章 来訪初日

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「おばあちゃんって」 「きよあきさんの育ての親なのですもの。きよあきさんに育てられているつむぎさんからしたら、おばあちゃんでしょう?」  当然のことのように言われ、三枝は戸惑ったが、どう反論すればいいのかが分からなかった。  言葉だけを聞いていると正しく聞こえるからだ。 「さ、内容をお話いたしますね。きよあきさんは、ご存知ですから安心して聞いてくださいませ」 「もう知ってるんですね」 「ええ。お話をしなければ、依頼ができませんから。今わたくしがお話するのは、きよあきさんの手間を省くことにもつながります。それと、もしもきよあきさんにお伝えしていない情報があった場合に、それを埋めることもできます」  言われてみればその通りだ。  聞いておくメリットの方が大きい。  うなずくと、「よかった」と翠は微笑んだ。 「では、お話しいたします。先ほどキャストのお話をしたと思いますが……まずは、こちらをご覧いただけますか?」  翠はバッグから折りたたんでいた紙を一枚取り出してきた。『夢灯路こい物語』と書かれている。 「こちらが最初のチラシの原稿です。しかし、実際に配布されたものはこちらです」  続けて同じデザインの紙を出して、並べる。 「違いがわかりますか?」  言われて両方を見比べてみた。  桜と水紋と魚が描かれており、それに重なるようにして役柄とキャストが書かれている。 「わ、すごい。翠さんって音楽コンクールの最年少優勝者なんですか」 「ええ」 「何か、他にもいくつも賞を取っててすごいですね」 「お褒めいただいて、嬉しゅうございますが……つむぎさん、見ていただきたいところはそこではございません」 「あ、ごめんなさい」  両方の違いについて探すのだったと慌てて見比べる。  違いはほどなくして見つかった。  翠の名前のすぐ下が主人公の名前とその演者なのだが、そこが違っていた。 「古いほうは『常陸真奈美』……新しいほうは『黒沼ルリカ』ってなってますけど」  翠が静かにうなずく。 「常陸真奈美さんは死にました。正しくは、先ほどわたくしが歌っていた場所で殺された可能性がございます」 「え……」  三枝は目を見開いた。
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