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「孫から聞いたんだけど、立派なんだって? 舞台。こりゃ、本番の前にも見ておかなくちゃと思ってね」
「まあ……わたくしもそうなのです。よかったらご一緒に参りませんか? 舞台はあちらのようなので」
そう言って翠は通り過ぎてきた方角――小山のある方を指さした。
タクシーの中からちらりと見た限りでは、作業は順調に進んでいるように見える。
「あれまあ。あっち? タクシーで来たんだけど通り過ぎてきちゃったわ」
「ふふ、わたくしもです。タクシーの運転手さんに百穴までと言ってしまったものですから、親切に入り口前で下してくださったのですね」
「あらあ……舞台のところって言えばよかった」
「きっと今の段階では、舞台と言われても分からないでしょうから運転手さんも困ってしまわれるのではないでしょうか」
「そうかい?」
「ええ。さあ、すぐそこですから、ゆっくり参りましょう?」
二人で連れ立って、舞台が設営されている松山城跡の小山の裾まで歩いた。
短い移動時間で老婆から聞いたところによると、菜摘は普段からすべてが手作りだそうで、舞台の設営も今回が初めてではないらしい。
まして今回は、市から予想以上の予算が出されたという事もあり、一同の意欲は非常に高いそうだ。
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