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「うちの子なんてね、決まってから毎日この話ばっかり。今日も仕事を休んでこっちに来てるよ」
「それでは同僚の方々が困っていらっしゃるのではありませんか?」
「それが、そんなこともなくてね? 頑張れって応援してくれてるんだよ。ありがたいねえ」
それを聞いて、予定を変更して見に来てよかったと持った。
翠のようなプロのオペラ歌手が、ボランティアで参加する公演に舞台設営から顔を出すことは稀だ。
それどころか本番前のリハーサルに一度だけということも珍しくない。
これは素人の集まりを軽んじているわけではなく、リハーサルも出演料に含まれるからだ。
舞台は、かつて松山城があった小山の裾の岩窟に組まれている。
道路を渡って舞台に近づくと、関係者以外立ち入り禁止と張り紙がしてある三角コーンが立っていた。
「どなたもいらっしゃらないようですね」
翠はあたりを見渡したが、スタッフらしき姿はない。
「みんな仕事しながらだからねえ。平日は誰もいないんだよ」
「あら、そうなのですか」
「こんな時でないと、こんなおばあちゃんが見学に来れないからね。ほら、みんなの邪魔になっちゃ悪いでしょ」
「では外から見せていただくだけにしておきましょうか」
「何言ってるの。そのために今日来たんだろうに。中に孫がいるから大丈夫」
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