3章 宝珠華翠

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 老婆は立ち入り禁止の札の脇を通り過ぎて奥に進む。躊躇のない足取りは、もう何度も来たことがあるかのようだ。  その行動に驚いたものの、翠にも近くで見てみたいという気持ちがあった。せっかくここまで来たのだ、遠くから眺めて終わりにするのは惜しいという気持ちもあって、すぐに止めることができなかった。  そんな翠の迷いなど一蹴するかのように、老婆はどんどん奥に行ってしまう。  好ましい行動とは思えなかったが、もしも危険があったら止めなければならない。後に続くことにした。 「お待ちください。わたくしどもが入っていいかどうか、まずは確認を取らなくては……」 「大丈夫、孫がその辺にいるから」 「足場を組んでいるところですから、危ないかもしれません」 「そうだよ、気を付けて歩きな?」  そういう事ではないと思いながら翠は懸命に老婆についていった。  つぼみがつき始めているしだれ桜の脇を通り抜けて進むと、立派な舞台が見えた。  下から1メートルほどの高さに組んでいるのはメインとなる舞台だろう。まるで京都の清水寺のように崖から張り出している。
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