3章 宝珠華翠

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「ああ、そこ、足元ぬかるんでるから気を付けるんだよ」 「え? ……あ、はい。ありがとうございます」  足元は舗装や整備はされていない。土の上にはいくつもの足跡があり、いくつかはそこに水が溜まっていた。雨が降った様子はないが、作業で水をまいたのだろうか。  5センチのヒールのおかげで多少の水たまりは問題ないが、滑ってしまっては問題だ。  翠は注意しながら舞台の前まで進んだ。 「パイプ、むき出しのままなのですか?」  高さを出しながらも、安全性を保つためだろうか。舞台の下は、無骨なパイプが何本も張り巡らされている。 「ああ、これはあとで隠すんだよ。専用の布でね、ぐるっと覆うの」  老婆の説明にうなずきながら、ひっそりと安堵した。  いくら素人が中心の舞台とは言え、観客に見せる意識は大切だ。 (けれど、これだけしっかりと組んであるのでしたら、安心ですね)  自分が立つ舞台だ。足元がしっかりしていてほしい。  更に、舞台上手側、つまり客席から見て右上方には、バルコニーのようなものが出来ている。その下には何に使うのか、鉄の棒が数本飛び出ていた。 (あれは一体……)  翠は目を細めてその棒を見た。何か布のようなものが絡みついているように見える。演出に使うものだろうか。  そう思いながら視線を下ろしていくと、木々がうっそうと茂っている箇所と土がむき出しの箇所がある。安全ネットでも張る予定なのかもしれない。
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