1章 容疑者たち

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『紗川さん、川越の祭りで奉納演武をしている方ですよね。お手合わせいただけないでしょうか』  高梨孝雄がそう言ってきたとき、三枝は驚いた。  何のことか分からず、きょとんと上司を見上げてしまったことが恥ずかしい。  祭りの奉納という事は、三枝の地元である川越の商店街の誰もが知っている常識のはずだ。 『古武術はまだ習い始めですが、殺陣の演技は経験があります。お願いします』  はじめは聞き間違いだと思っていたことが、熱心に頼み込んでくる様子から本当だと分かって驚いた。  助手である三枝に隠していた訳ではないだろう。もちろん、三枝が高校生だからだとか、アルバイトだからと言う理由でもないはずだ。  三枝は川越の和菓子屋の息子だ。  祭りの時期はいつも店の手伝いでいそがしく、他に行くことができないとはいえ、これは恥ずかしい。 (地元の人間ほど地元を知らないっていうけどさ。もー……なんで言っておいてくれなかったんだよ。先生のハクジョーもん)
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