夜のカフェテラス

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夜のカフェテラス

 星の綺麗な夜だった。昼から雲ひとつなく晴れわたった青空は、日が落ちるにつれ、きらきらと瞬く星が散らばった群青色のキャンパスへと移り変わる。僕はほろ酔い気分で、カフェのテラス席から、じんわりと明るさののこる宵空をみあげた。ひい、ふう、みいと星を数えてみる。しかし、それもすぐに飽き、とっくに空になったグラスについた水滴を指でなぞる。ねっとりと暑い初夏の夜。昼の暑さを留めた石畳からは、むわりと地面のにおいが湧きたつ。通りを行く人も、客も、いまだ疎らだった。夏の夜は長く、遊びにでるには早すぎる時間なのだ。 「おかわりはいかがですか?」とウェイターに声をかけられたが、待ち人がいるからと断った。嫌な顔をされる。だが、すでに2杯もグラスをあけていた。……ああ、はやく来すぎだ、それはわかっている。でも、確かに彼女は「夜に」「カフェテラスで」といったのだ。通りに視線を向ける。こころなしか、夜の気配が濃くなっていた。それは、ここちよい温度に冷えた風たったり、カフェのオレンジ色のあかりが浮かびあがらせる石畳の陰影の強さから、感じられた。僕は、その気配をじっとたどりながら、ただただ、夜がふけるのを心待ちにしていた。image=510005193.jpg
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