雪景色

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雪景色

 つぶのおおきな牡丹雪が、降りつもる。田んぼに、冬の枯れ木に、湖畔にみえる家々の影に、それから、ひとり、舟を漕ぐ中年の頃の男の菅笠に。  雪が音を吸いとるため、あたりはぞっとするほどの静寂に包まれていた。みずからの心臓の音すらも、吸い込まれてしまう──そんな想像にぞわりと彼は背を震わせる。視線をあたりに移ろわせる。生ける存在はなく、ただ、雪が、暗い湖に音もなく飲まれては消えていく。次から次へと、間断なく、暗闇に溶けてゆくさまは、何か、巨大な生き物に飲み込まれていくのを連想させた。おおきな黒い生き物の腹のなか、孤独に立ち尽くす……男はあたまを振りかぶり、嫌な想像を振り払う。こんな静かな雪の日に、ひとりでいるから変なことを考える。彼は、あたたかな光の溢れる方向を目指して舟を漕ぐ手をはやめた。image=510080742.jpg
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