夜の夢

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夜の夢

 夢をみた。舞踏会に招待される夢。大理石でできたりっぱな大階段をのぼった先、白亜にかがやくお城には、同じ年頃の女の子たちがあつめられていた。音楽隊もいないのに不思議と響き渡るクラシック音楽、ゆたかなバラのかおり、そしていつまでたっても姿をみせない主催。みな揃って白のドレスを着た女の子たちは、うつろな表情をしている。気味の悪さは感じたものの、「これは夢」だとわかっていた。「はやく起きないと」という焦燥がちりちりと胸を焦がすけれど、方法がわからない。からだも自由に動かない。 「……うんうん、今回も良い乙女たちをつれてこれた」  いずことなく、ふいに響いた声は幻聴だとおもった。男とも女ともつかぬ、低くささやく、不気味なしゃがれ声。 「さあて、どんな按配にしようか、そうさねえ、半分は白のバラ、そのうちさらに半分はピンク、残りは赤にしようかねえ」  その途端、ダンスホールにあつめられた女の子のうち半分が、白のバラへとかわった。  逃げなければ。あたりに悲鳴があがるとともに駆けだしていた。  不気味なほど明るい夜空だった。空の色は、星のひかりさえもべっとりと塗りつぶしてしまうような青色。逃げなければ。逃げなければ。城を飛びだし、階段をかけおりる。足がもつれた。バラのあしらわれた純白のドレスは、じわりじわりと染まり赤に近づいていく。隣を駆けていた彼女が、視界から姿を消した。振り返ると、ぽとりと、一輪の真紅のバラが落ちていた。はやく、はやく夢から醒めないと。image=510114233.jpg
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